老後資金への不安
会社員や公務員の方は定年(多くは60歳または65歳)後に引退されるかと思います。
日本人の平均寿命は80歳超ですから、引退から少なくとも15年~20年程度は生きることを想定したほうが良さそうです。
一般的には、以下のようなことが言われます。
- 貯蓄を月額10万取り崩すと年額120万円必要になる
- なので、4,000万円あれば引退後33年間は生活できる
- つまり、65歳に引退するならば98歳まで生活できることになり、おそらく十分である
暗黙の(悪しき)前提
ただし、これはいくつかの前提に依拠していることを理解すべきです。
1)インフレ率ゼロを想定している
現代日本ではインフレ率はほぼゼロですのでこのような「暗黙の前提」がなされることが多いのですが、実際にそうなるかどうかまた別の問題です。
人類の歴史を振り返ると、基本的には貨幣価値は下落(インフレ)傾向が続いてきましたし、現在の日本政府も緩やかなインフレ基調を目指しており、その目標値は年率2%です。
年率2%のインフレが起きると、現金預金の実質的価値は目減りし、例えば10年で18%、20年で33%下落します。
このため、インフレに強い資産を持つことを考えておいたほうがよいと思います。
2)利回りゼロを想定している
上記のプランは、利回りゼロを想定しています。
本来、資産は運用すれば増やせるのに、タンス預金を想定しているのでしょうか。
現代の日本社会には、どことなく、貯蓄を礼賛し(「資産は安心な銀行預金にしなさい」)、一方で投資を忌避する(「ハゲタカファンド」)風潮があるように感じます。
そして、預金や国債に資金が殺到する結果、金利が「ゼロ金利」となっています。
ですが、一定のリスクを取ってより高い利回りを目指す「投資」活動は、社会の発展に不可欠です。
実際、貯蓄を礼賛する方が金利を受け取れるのも、資金を借り入れて投資している人がいるおかげです。
私は、皆様が胸を張って、事業活動(企業や事業用不動産)に投資し、運用利回りを受け取るべきだという立場です。
現代日本人が取りうべき合理的対策
そこで、老後資金の準備に関して、FPとして回答するなら、以下の2点となります
1)インフレ負けしない実物資産を想定する
インフレ負けしない実物資産(例えば株式や、REITを含む不動産)での運用が必須でしょう。
これにより、利回りがインフレ率を下回る事態を回避できます。
2)一定の実質利回りを追求する
企業の株式への投資が長期的にはローリスクであることは、過去のエントリ[Link]でも言及しています。
一定のリスクを甘受すれば、長期的にはインフレ率を上回るリターン(プラスの実質利回り)を得ることができますから、皆様は正当な運用利回り(例えば3-5%)を求めるべきです。
必要な資産額を算定する2つの考え方
設例で考えてみましょう。
「年金が年額で120万円(月額10万円)不足する」事例を考えてみましょう。
例えば以下の2つの考え方があります。
ただし、いずれも簡易計算であり、インフレが発生すると元本の実質価値は下がっていきますので、注意が必要です。
1) 運用しながら取り崩す
「30年間、年間120万円を拠出できるように、65歳時点の保有資産を設定する」と目標設定してみましょう。
利回りをやや控えめに年率3%(実質値)で試算すると、65最時点で必要な資産額は、約2,350万円(120 ÷ 0.051) と算出されます。
利回りの想定値や運用年数を変更して考えたい場合、下記の「資本回収係数」を利用してください。
2) 元本は保持しつつ運用益で生活する
より保守的に「年間120万円の利回りがあがるように、65歳時点の保有資産を設定する」という考え方も可能です。
この場合は、同じ年率3%(実質値)の利回りを仮定すると、65最時点で必要な資産額は4,000万円(= 120 ÷ 3%) と算出されます。
利回りの想定値を変更して考えたい場合、上の式の「3%」の部分を変更してください。