アパート・マンション投資で資産形成するためには、区分所有マンションではなく一棟ものにすべきだというのが私の意見です。
一棟もの投資戦略の枠内においても、「都心 vs 地方」「木造 vs RC」「高稼働物件 vs 再生物件」「競売 vs 一般」など様々な切り口があり、悩んでいる方も多いと思います。
本稿では耐用年数に対する考え方で2分類し、比較検討します。これは銀行などの金融機関が行う担保評価と深く関連する結果、2つの戦略で付き合う金融機関が違ってきます。
耐用年数とは何か
そもそも「耐用年数」とは何でしょうか。日本の税法では、建物の減価償却期間が構造により定められています。木造は22年、軽量鉄骨造は27年、重量鉄骨は34年、鉄筋コンクリート(RC)は47年という具合です。これは正確には「税法で定める減価償却年数」なのですが、金融機関の担保評価の際には「耐用年数」と呼ばれ、またそのように扱われることが多いようです。
メガバンクを含む多数派の銀行は、耐用年数を超えた建物の担保評価を非常に厳しく見積もる傾向があり、場合によってはゼロ評価(土地価格のみ)やマイナス評価(土地に戻すには解体費用がかかるため)になってしまいます。その結果、担保評価が借入額を上回る「信用毀損」状態となりがちです。
融資期間を耐用年数内におさめる方法
戦略の概要
1つは、融資期間を耐用年数内に収める方法で、「多数派の銀行評価に合わせる」考え方に基づいています。
融資は耐用年数内におさめて多数派の金融機関から高評価を受け、さらに取引を拡大して資産規模を拡大するという方針です。これにより、「信用毀損」を避けて多数派金融機関との取引を拡大することができます。特に、メガバンクは金利が非常に低い特長がありますので、メガバンクとの取引を望む投資家はこの戦略を採用することが多いようです。
戦略の評価(メリットとデメリット)
この戦略のメリットは、①金利が低い融資を受けることができて見栄えがよく、②付き合う金融機関もメガバンク等の地位が高い銀行となること、③同一方針の銀行が多いため借換や他者への売却がしやすいこと、があります。
一方のデメリットは、①利回りが低いことと、②融資期間が短いこと、です。この結果キャッシュフローを確保しにくいことが課題です。人気がありリスクの低い戦略であるため採用している人が多く、その結果、物件価格が上がって利回りが低くなりがちなことです。
耐用年数を超える融資を受ける方法
もう1つの戦略は、耐用年数を超える期間の融資を受ける方法で、「少数派の金融機関との取引を選ぶ」考え方です。
戦略の概要
上述の通り、いわゆる「耐用年数」は、あくまで税法の定めであり、減価償却の期間を定める目的で設定されたものです。建物を実際に何年利用できるかという「実耐用年数」とは異なります。築50年超の木造住宅は数え切れないほど存在しています。
こうした現実を踏まえて、いくつかの金融機関は耐用年数を超過した期間の融資を提供してくれます。こうした少数派の金融機関との付き合いを選ぶ戦略も成り立ちます。なお、2018年に世間を騒がせたスルガ銀行は、こちらの少数派グループに属していました。
戦略の評価(メリットとデメリット)
戦略のメリットは、①高い利回りが期待できること、②長期融資を受けられることです。その結果、キャッシュフローが手元に厚く残ります。特に、脱サラを目指す方とっては最大の課題であるキャッシュフローの確保が実現しやすいことは喜ばしいです。
デメリットは、①金利が高いこと、②信用金庫・信用組合・ノンバンクなど社会的評価が高くない金融機関との取引となること、③各金融機関の方針が違うため、借換や他者への売却が難しい(流動性リスクがある)ことです。
なぜ、実態と異なる耐用年数が利用されるのか
金融庁が方針を示している
各金融機関は自由に融資方針を定めることができず、金融庁の指導にしたがっています。現在、各金融期間が横並びなのは、この金融庁の方針が影響しているようです。
金融庁の方針変更は未知数
もし、金融庁の方針変更が緩和され、実態に即した融資年数が許可されれば、耐用年数を超えた期間の融資が容易になり、対象物件の保有者は、資産価格が上がるでしょう。
逆に、金融庁の監督体制が強化され、各金融機関に一律の審査方針が強いられることになれば、耐用年数を超えた期間の融資が不可能になり、対象物件の保有者は、資産価格の下落に見舞われるでしょう。
将来どんな政策変更が起きるかを見通すことはできませんから、各自の観察と予測に基づいて踏まえて投資行動を決める必要がありそうです。