不動産取引に揉め事はつきものです。本稿では、民事訴訟の事例について解説します。
訴訟に至った経緯
思いがけない補修費用の発生
Aさんは、不動産売買を行い、対象物件に瑕疵があることが取引後に判明し、補修費用と付随費用が発生しました。
このため、「瑕疵担保責任による損害賠償請求」を提起したものです。後日、請求原因に「告知義務違反」を追加しました。
訴訟のリスクは意外に低い
まず、訴訟に係る費用と、負担することになるリスクは以下のようになります。
自己負担額は最大でも訴訟費用(後述する印紙代、切手代、および少額の法廷出頭経費)のみとわかりました。
- 訴訟費用は限定的(請求額10万円だと約5,000円、50万円だと約9,000円、100万円だと約16,000円)
- 勝訴すれば上記費用は被告負担にできる
- 弁護士費用は各自持ち出しなので、敗訴しても損害が膨らむことはない
そこで、リスクは低いと判断して、訴訟に踏み切りました。
訴訟の内容
請求内容
以下の項目を請求しました。
- 改修工事費用
- 現場までの往復移動に要した交通費
- 上記の往復移動の所要時間に相当する逸失利益
請求の根拠
売買契約においては、売主が瑕疵担保責任を負わない特約(瑕疵担保免責特約)がありました。これは、「引渡した契約対象物に問題があったとしても、契約当時にその事実を知らなかったのであれば、責任を負わなくてよい」という取決めです。しかし、今回の取引経緯を考慮した結果、常識的に考えて「知らなかった」という主張にはムリがあると思われました。つまり、Aさんの印象としては、「売主は瑕疵を知っていたのに、しらばっくれてウソをついていたに違いない」と考えています。
ですが、「知っていた」「知らなかった」という内心の事実を法廷で立証することは(ウソ発見器を使うか、被告が口を滑らせるかしない限り)きわめて困難ですから、「知っていたと見做せるほど重大な過失があった」という論理構成を採用しました。
過去の判例[Link]でも採用されている考え方です。
参照条文
民法第572条(担保責任を負わない旨の特約)
売主は、第560条から前条までの規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
簡易訴訟の提起
請求額が140万円以下の事件は、簡易裁判所での取扱となります。
訴訟の手続きは難しくありません。
必要書類の確認
簡易裁判所のウェブサイト[Link]等の情報を総合したところ、必要書類は以下の通りでした。
- (原告・被告の片方または両方が法人の場合)法人の履歴事項証明書を1法人につき1部
- 訴状2部(代表印を捺印)
- 証拠書類2部ずつ
- 切手(各種の通知発送に利用。裁判所により異なる。[Link])
- 収入印紙(裁判所の手数料。全国共通のようです。[Link])
訴状および証拠書類の作成・印刷
裁判所のウェブサイトでは、たいてい、雛形のPDFファイルが取得できます。これに加え、民間の方が提供されているワードファイルがありました[Link]ので取得しました。
訴状及び証拠書類は、合計3部(原告用、被告用、裁判所用)必要で、そのうち2部(被告用と裁判所用)を提出します。裁判所の説明には2部と記載があったため、自分用の控えが不足する事態となりました。そこで、裁判所にあるコピー機で控えを作成しました。
証拠書類への証拠番号記載して受付
証拠書類には、原告の場合「甲◯号証」という記載が必要となります(被告の証拠は「乙◯号証」です)。私は記載をしていなかったのですが、受付窓口で「甲 号証」というスタンプを借してくれたため、それを利用して数字を手書きしました。
収入印紙と切手の取得
郵便局で購入できます。裁判所内にも購入できる場所があり、また店員の方が慣れているので裁判所で買うとよいです。
受付後の審理プロセス
受付時にいただいた説明によると、1週間ほどで担当書記官から連絡があるとの話でした(実際には土日を挟んで2営業日後でした)。開廷(第一回口頭弁論)は約1ヶ月〜1.5ヶ月後との話でしたが、書記官さんとの調整の結果、受付から6週間後に設定されました。
続報
事件が解決した段階で続報を掲載予定です。
感想
インターネットの時代ですから、訴状も必要書類もネット検索を駆使して1日で作成できました。良い時代になったものだと思います。
ただし、被告が全面抗戦して来る場合、多大な時間がかかってとても割に合いません。裁判は必要な手続きですが、係争を未然に防ぐ取り組みこそが最も重要だと改めて感じています。