2018年、スルガ銀行が社会を賑わせました。シェアハウスやマンション・アパートの購入時にフルローンやオーバーローンを提供する手法として、スルガ銀行では、物件価格を実際よりも高く設定して融資を受ける(「ふかす」あるいは「書き上げる」とも言うようです)という方法を使っていたようです。

具体的なオーバーローン手法

具体的な手順として、主に二重契約または契約変更という手法を利用していました。

二重契約(二重売契)と変更契約

売主と買主が締結する売買契約書(例えば1億円)のほかに、銀行提出用の売買契約書(例えば8000万円)を別に作成する方法です。

例えば1億円の契約書に対して90%の融資承認が下りると、9000万円の融資を受けられますから、諸費用が仮に7%の560万円かかったとして、総額8,560万円を全て融資で賄えて、なおかつ現金440万円が手元に残る形になります。

契約変更

売主と買主が売買契約書を締結した後、金額を下げる変更契約を締結します。銀行には最初に締結した契約書のみを提出することになります。この際、発生する効果は二重契約の場合と同じです。

スルガ融資のメリット・デメリット

投資額を大きくできるメリット

自己資金を温存して限られた資金を有効利用することができます。このため、自己資金ゼロでも数億円の投資ができることもあったようです。借入が増えると当然リスクは増えますが、銀行内の規定では投資できなかったはずの金額を投資できることはたいへんなメリットでした。

コンプライアンス上のデメリット

デメリットとしては、決算書に問題が発生することがあります。もし固定資産台帳を取得価格どおりに作成すると、融資審査時の売買価格よりも低い金額となってしまいます。これを銀行に開示することを避けるため、税務用と銀行用の二つの帳簿(二重帳簿)を作成をしてしまう事例があるようです。

具体的には、税務用の決算書で土地価格を減額するようです。土地は減価償却費が発生せず、毎年の利益を調整する必要がないためです。ただし、物件売却時の利益にずれが発生しますので、売却時に何とかして、差額分のズレを解消しなければなりません。

以下では設例を具体的な数値で検討します。帳簿1(銀行提出)の数字が土地5,000万円・建物5,000万円とします。帳簿2(税務用)では2,000万円の減額を土地価格で調整しますので、土地3,000万円・建物5,000万円となります。

保有中は建物の減価償却費は等しいですから、利益に変動はありません。ここでは仮に、売却までに1000万円の減価償却費を計上し、売却時の建物簿価が4,000万円であったと仮定します。帳簿1の簿価は9,000万円(=5,000+4,000)、帳簿2は7,000万円(=3,000+4,000)です。

さて、売却時に土地・建物とも帳簿1の簿価である9,000万円で売却できたとします。この場合、帳簿1では損益なし、帳簿2では土地売却益2,000万円となり、利益が2,000万円ずれ、これに伴って税金と純資産もずれてしまいます。

ここでふたたび二重契約等を行い、帳簿1では売却価額11,000万円とし、帳簿2では9,000万円とすれば、どちらも利益額2,000万円となり、ようやく金額が一致することになります。ただし、今度は帳簿1の資産が実態よりも2,000万円増えますので、これを非事業用会計にまわす、といったところでしょうか。

こうした一連の操作は第一に違法であり、また煩雑でよほどの会計知識がないと混乱しますから、全くおすすめできないものです。